大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 平成元年(ネ)246号 判決

控訴人

平賀基伸

右訴訟代理人弁護士

増田義憲

本田兆司

桂秀次郎

日本国有鉄道訴訟承継人

被控訴人

日本国有鉄道清算事業団

右代表者理事長

石月昭二

右訴訟代理人弁護士

樋口文男

右指定代理人

福田隆司

周藤雅宏

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  控訴人が被控訴人に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

3  被控訴人は控訴人に対し、金一七〇六万九五九一円及び平成元年八月三日以降毎月一五日限り金二二万一六八三円を支払え。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者の主張

次のとおり付加、訂正する外は、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(原判決の付加、訂正)

原判決(本誌五四三号〈以下同じ〉)二枚目裏五行目から同六行目(23頁2段15行目)にかけての「左記事由」の次に「(以下「本件懲戒事由」という。)」を加える。

同三枚目表三行目の「四時三〇分頃」(23頁2段26~27行目)の前に「同日午前」を加える。

同三枚目表一〇行目から同末行にかけての「昭和五九年三月分までの賃金合計二八六万七五七六円」(23頁3段7行目~8行目)を「平成元年八月二日までの賃金合計一七〇六万九五九一円」と改める。

同三枚目裏五行目から同六行目にかけての「二八六万七五七六円及び昭和五九年四月一日」(23頁3段15~16行目)を「一七〇六万九五九一円及び平成元年八月三日」と改める。

同四枚目裏一〇行目の「自区泊」(23頁4段20行目)の次に「(所属区の宿泊施設に宿泊すること)」を加える。

同五枚目裏四行目の「所属」(24頁1段13行目)の次に「区」を加える。

同六枚目裏二行目の「午前五時二五分頃」(24頁2段11行目)の前に「同日」を加える。

同七枚目表六行目の「国鉄就業規則」(24頁3段2行目)を「日本国有鉄道就業規則(以下「国鉄就業規則」という。)」と改める。

同九枚目表一行目の「これには」(24頁4段27行目)を「右時間中には」と改める。

同一一枚目表五行目から同六行目にかけての「本件と全く同種の」を削除し、同七行目の「国鉄は、」(25頁3段5行目)の次に「本件と全く同種の右事故を起こした」を加える。

(当審における控訴人の主張)

一  被控訴人は、国鉄就業規則が国鉄法三一条一項一号の「国鉄の定める業務上の規程」に当たるとしたうえ、控訴人の所為が同規則六六条に定める懲戒事由に該当するとして本件懲戒免職処分に及んでいる。

しかしながら、国鉄就業規則六六条各号の規定を、国鉄法三一条の「国鉄の定める業務上の規程」と解することは、法的論理的に矛盾するものであるといわなければならない。

何故ならば、右のように解すると、国鉄法三一条一項一号に定める「国鉄の定める業務上の規程に違反した場合」とは、懲戒事由に違反しない義務の存在を前提として、懲戒事由に違反したので懲戒に付すると文理解釈することになるが、そのような規程があるわけではなく、国鉄法三一条一項一号の「国鉄の定める業務上の規程」とは、懲戒事由に該当するもととなる規程を意味すると解さざるを得ない。それ故に、国鉄法三一条一項一号は、「就業規則六六条各号の所為」と記載せずに、「業務上の規程に違反した場合」と記載しているものである。

そうすると、国鉄法三一条に基づきなされた本件懲戒免職処分については、国鉄就業規則六六条各号所定の懲戒事由の有無は問題とすべきでなく、同法三一条一項一号の「国鉄の定める業務上の規程」に違反した所為のみ問題にされるべきであるが、控訴人の所為のうち、右規定違反となるのは「待ち合わせ時間中に上司に無断で外出したこと」と「乗務を欠いた」ことの二点に尽きるといわなければならない。

そして、右無断外出については、待ち合わせ時間が私的時間であり、職場慣行からしても懲戒事由に該当せず、また、右欠務については、実質的に年休指定をして代務者を確保した場合と異なるものではないことは、原審における控訴人主張のとおりである。

二  昭和六二年四月の国鉄のいわゆる分割民営化にあたり、各地の旅客鉄道株式会社(JR)において国労組合員に限り採用を拒否するという不当労働行為事例が頻発しており、本件事件と全く同種の事故をおこした井面がJR西日本に採用されている経過をみれば、控訴人に対する本件懲戒免職処分が不当労働行為意思に基づきなされたことは明らかである。

三  本件事件当時、国鉄では待ち合わせ時間中の職員の飲酒行為について、規律違反であるとの自覚が非常に薄弱な現状にあり、職場規律の確立のため全職場と全職員が努力していたとする被控訴人の主張は、国労及びその組合員に対する不当労働行為意思を糊塗するものである。

(当審における被控訴人の主張)

一  国鉄法三一条は、職員の義務違反や著しく不都合な行為に対し、国鉄の秩序ないし規律を維持するため、使用者として行う制裁としての懲戒処分について定めたものであり、同条一項一号は「国鉄の定める義務上の規程に違反した場合」を懲戒事由として規定している。

ところで、国鉄は、高度の公共性を有する企業体として、職員に対し業務上遵守を要求する種種の規程、例えば、職員服務規程、安全確保に解する規程等を定めているが、国鉄就業規則は、その中でも最も重要な規程であって、同規則六六条各号は、懲戒の対象となる企業秩序違反を列挙することにより、職員に対して右事由に該当する行為の禁止を要求しているものである。

したがって、国鉄就業規則が、国鉄法三一条一項一号に定める「国鉄の定める業務上の規程」に当たることは明らかであり、同規則六六条の禁止規定に違反した控訴人に対し、国鉄法三一条に基づき本件懲戒免職処分をしたことは正当である。

二  本件懲戒免職処分が、不当労働行為意思に基づきなされたとの控訴人の主張は争う。

三  本件事件の発生当時、国鉄は、臨時行政調査会の基本答申等を受けて、全職場と全職員が一体となって職場規律の確立に向けて鋭意努力をしていた状況下にあり、かかる状況の認識の欠如が控訴人をして本件不祥事を惹起せしめたというべきである。

第三証拠

証拠関係は、原審及び当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する(略)。

理由

一  当裁判所も、国鉄法三一条に基づく本件懲戒免職処分は有効であり、懲戒権の濫用ないし不当労働行為には該当しないと判断するが、その理由は、次に付加、訂正する外は、原判決理由説示(同一二枚目裏五行目冒頭から同二四枚目表二行目末尾まで(25頁4段15行目から28頁4段23行目)と同一であるから、これを引用する。

原判決一三枚目裏二行目の「懲戒事由」(26頁1段13行目)の前に「本件」を、同三行目の「帰着点呼の際、」(26頁1段18行目)の次に「控訴人に対し、」を、それぞれ加える。

同一三枚目裏八行目の「右」(26頁1段24行目)の次に「争いのない」を加え、同一四枚目表二行目の「被告主張のような」(26頁1段24行目の(証拠略))を「昭和五九年五月二八日福田隆司撮影の」と改め、同三行目の「現場」(26頁1段24行目(証拠略))の前に「本件事件」を、同四行目の「原告本人尋問の結果」(26頁1段24~25行目)の次に「及び当審における控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨」を、それぞれ加える。

同一四枚目表八行目の「二日」(26頁1段31行目)の前に「同月」を加える。

同一五枚目表一行目の「二〇時」(26頁2段21行目)を「二一時」と改める。

同一五枚目裏四行目の「向側」(26頁3段12行目)を「向かい側」と改め、同九行目の「前記定めが」(26頁3段19行目)の次に「必ずしも確実に」を加える。

同一六枚目表一行目から二行目にかけての「一杯」(26頁3段24行目)の次に「程度」を、同三行目の「離れた」(26頁3段27行目)の次に「広島市南区西蟹屋四丁目所在の」を、同末行の「午前四時」(26頁4段7行目)の前に「同日」を、それぞれ加える。

同一六枚目裏三行目から四行目にかけての「午前五時二五分頃」(26頁4段11行目)の前に「同日」を、同五行目の「山本当直助役」(26頁4段14行目)の前に「右連絡を受けた」を、それぞれ加え、同六行目の「乗務できないので」(26頁4段15~16行目)を「乗務できないと判断し」と改める。

同一七枚目表二行目の「修理見積」(26頁4段26~27行目)を「控訴人による前記器物破損の修理見積額」と改める。

同一七枚表八行目の「新聞紙上」(27頁1段4行目)の前に「全国紙、地方紙の」を、同九行目の「大暴れ」(27頁1段5行目)の前に「屋根に登り」を、同行の「警察で保護」(27頁1段5~6行目)の前に「国鉄職員」を、それぞれ加える。

同一七枚目裏末行の「許されるもの」(27頁1段25行目)の前に「当然」を加え、同行の「相当であり、」の次に「全認定のとおり本件事件当時必ずしも確実に励行されているとは言い難い状況にあったとしても、」を加える。

同一八枚目裏末行の「列車の」(27頁2段31行目)を「列車への」と改める。

同一九枚目表七行目(27頁3段10行目)の次に、改行して、次のとおり加える。

「 なお、控訴人は、国鉄就業規則六六条各号の規定を、国鉄法三一条一項一号の「国鉄の定める業務上の規程」と解することは、法的論理的に矛盾するものであり、国鉄法三一条に基づきなされた本件懲戒免職処分については、国鉄就業規則六六条各号所定の懲戒事由の有無は問題とすべきではない旨主張するが、右就業規則は労働基準法に基づき作成された法規範としての性質を有するもので、同規則六六条各号の規定は、職員に対し右懲戒事由に該当する行為の禁止を定めたものと解され、国鉄法三一条一項一号の「国鉄の定める業務上の規程」に当たることは明らかである(最高裁判所第一小法廷昭和四九年二月二八日判決、民集二八巻一号六六頁参照)。

これと異なる、控訴人の右主張は、ひっきょう独自の見解であって、採用の限りではない。」

同一九枚目表八行目の「器物損壊」の前に「本件飲酒及び」を加える。

同一九枚目裏七行目(27頁3段29行目)の次に、改行して、次のとおり加える。「また、控訴人は、本件器物損壊の所為につき、被害弁償がなされ、刑事事件としての立件がなかったことをもって、国鉄に対する信用毀損がなかった旨主張するが、右器物損壊の態様や前記認定の新聞報道がなされた事実などからして国鉄及びその職員の社会的信用を失墜させたことは明らかで、右主張は到底採用することができない。」

同二一枚目表一行目の「一七ないし一九、」(28頁1段7行目の(証拠略))の次に「原本の存在と成立に争いのない乙第一九号証の一の一、二、同号証の二の一ないし七、同号証の三の二、」を、同三行目の「一ないし六、」(28頁1段7行目の(証拠略))の次に「弁論の全趣旨により原本の存在と成立を認める乙第一九号証の三の一、同号証の三の三ないし七、」を、同四行目の「各証言」(28頁1段7行目の(証拠略))の次に「及び弁論の全趣旨」を、それぞれ加える。

同二二枚目表一〇行目(28頁2段20行目)の次に、改行して、次のとおり加える。

「そして、控訴人の所属していた貨車区においても、本件事件発生前において、飲酒による翌朝勤務の欠乗を厳しく戒めるなど職場規律の確立を、口頭あるいは掲示物により、職員に対して繰り返し伝達していた。」

同二三枚目表一行目(28頁3段9行目)の次に、改行して、次のとおり加える。「控訴人は、本件事件当時、国鉄では待ち合わせ時間中の職員の飲酒行為について、常習的に飲酒後熟睡するという実態があり、規律違反であるとの自覚が非常に薄弱な現状にあった旨主張するが、本件は、単なる飲酒行為に止まらず、泥酔の上、民家の屋根に登って多数の瓦を投げ捨てるなど、国鉄及びその職員の社会的信用を著しく失墜させる行為に及んだことが、懲戒免職処分の事由とされたものであり、また、控訴人は、乗務予定列車への欠務につき、事前に年休指定をしたのと異ならない旨主張するが、前認定のとおり、警察からの泥酔保護の連絡を受け、当直助役によって代務者の手配ができたもので、右主張も到底採用できない。」

同二三枚目裏五行目から同六行目にかけての「主張するが、」(28頁4段3行目)の次に「原審及び当審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は、本件事件当時、国労の組合員であり、同組合呉支部青年部長等の役員歴を有していたことが認められるが、前判示のとおり、本件懲戒免職処分の対象となった控訴人の所為と対比して考えると、右処分の選択判断は合理性を欠くものではなく、」を加える。

二  以上の次第で、控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。

よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田忠治 裁判官 佐藤武彦 裁判官 難波孝一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例